以前、「表示に関する登記」は、原則登記をする義務があるというお話をいたしました。
今回はその続編になりますが、まずは「登記の種類」についておさらいです。
○司法書士がする登記 → 「権利に関する登記」であり、
これは、「不動産の権利関係を公示する登記」 です。
○土地家屋調査士がする登記 → 「表示に関する登記」であり、
こちらは、「不動産の物理的現況を公示する登記」です。
いずれの登記も、「不動産取引の安全と円滑に資する」ことを目的(不登1)としています。
それでは、ここで問題です。
Q:「権利に関する登記」は、登記をする義務があるのか?
A: 結論、「権利に関する登記」は、登記をする義務がありません。
cf.)「表示に関する登記」は、原則として、1ヶ月以内に登記をする義務有り。
(参考 https://www.e-souzok.com/report/archives/370)
では、「権利に関する登記」を怠った場合でも、「不動産取引の安全と円滑に資する」という目的は達成できるのでしょうか?
【事例①】
所有者 A
A所有の土地 甲土地
甲土地の第1の買主 B
甲土地の第2の買主 C
①11月1日 AとBの間で、甲土地の売買契約を締結し、Bがその売買代金を支払った。
②11月10日 AとCの間で、甲土地の売買契約を締結し、Cがその売買代金を支払った。
③11月30日 Cが自己の名義とする所有権移転登記を行った。
つまり、Aが、BとC両方に対して、二重売買を行ったということです。
それでは、問題です。
Q:上記①②の場合、甲土地は、BとCどちらの物になるのでしょうか?
A:先に売買契約を行い、売買代金を支払ったBの物になると思いそうになりますが、
実は、今の状態では、どちらも自分の物であると主張できません。
その後③の状態になると、この時点で、Cは、Bに対して、自分の物であると主張できます。
つまり、登記をして初めて、第三者に対して自分の物であると主張できることになります。
(これを、「登記の対抗力」といいます)
したがって、「権利に関する登記」は、登記をする義務は無いが、登記をしないと対抗力を取得出来ないというペナルティを課すことにより、「不動産取引の安全と円滑に資する」という目的を達成しているわけです。
(②11月10日の時点で、B名義とする所有権移転登記を行われていれば、Cは、Aが現在の所有者では無いと気づく事が出来、契約しなかったと言える)
それでは、
Q: 相続登記というのは、登記をする義務があるか?
A: もう、お分かりですね。相続登記は、「権利に関する登記」ですので、義務はありません。
では、相続登記をしなかった場合にペナルティが課せられることはあるのでしょうか?
【事例②】
被相続人 A
Aの妻 B
Aの子 C
A所有の土地 甲土地
① Aが死亡。
② 「Bに甲土地を相続させる」旨のAの遺言書が見つかる。
② Cが書類を偽造して、甲土地をC名義とする所有権移転登記(相続登記)を行う。
③ Cが甲土地をDに売却して、所有権移転登記を行う。
上記①~④の場合、
Q: 甲土地は、BとDどちらの物になるのでしょうか?
A: Bの物。
つまり、事例①と異なり、Bは、登記無くして、Dに対抗できることになります。
何故かというと、遺言の効力により、Aが死亡した時点で、甲土地は、当然にBの物となっており、Cは、甲土地に関して「無権利者」となる。無権利者であるCから買ったDも無権利者となります。
(事例①と異なり、BとCは、対等ではない)
したがって、Bは、登記がなくても、無権利者であるDに対抗できるということになります。
この場合、Dは、C名義となっていた登記を信じて買った訳ですが、保護されません。
つまり、日本の登記制度には、「登記記録に示された権利関係が実際に存在しない場合でも、登記記録を信頼した者を保護するために、記録内容に応じた実態関係があったものとみなす」という「公信力」がありません。
これが、相続させる旨の遺言ではなく、特定遺贈であったり、遺産分割協議であった場合、結論が変わってくるのですが、それは稿を改めて書かせて頂きます。
このように、相続登記は、登記を行わなくても、所有権を失うというペナルティが課せられる事は少ないのですが、時間が経過すると、書類の紛失や相続人が増えて協議がまとまりにくくなる等の事態が発生しますので、何事も早め早めが良いでしょう。
関連記事